インドネシアは、人口の90%弱をイスラム教徒が占めています。
イスラム教では飲酒は御法度とされていますので、インドネシアにはアルコール市場が全くないと勘違いされている方も稀にいますが、実際にはそれほど厳格ではないイスラム教徒や他宗教(キリスト教やヒンドゥー教など)、また観光客を含む外国人向けにアルコール市場が存在しています。
アルコール市場のポテンシャルは高くない?
インドネシアは確かに人口や可処分所得が増加することが予想されており、アルコール市場のマーケット成長を期待できるのでは?とも考えられます。
しかし、私はアルコール市場も同様に右肩上がりに成長できるかを考えると疑問が残ります。
理由1. 一人当たりのアルコール消費量はかなり低い
例えば、インドネシア人で飲酒する方でも、大半はビール1杯程度で十分というライト層で、その頻度も年に数回程度という方が多数派である気がします。
調査結果からも、インドネシア人の飲酒習慣はほとんどないと言えます
こちらは過去10年間での飲酒率の推移です。可処分所得の拡大によりここ10年間でほんの少し飲酒率は上昇しましたが、それでも人口の5%以下です。
理由2. 安価な密造酒の流通
インドネシアでは正規のアルコール飲料には、高額の酒税がかけれており庶民からすると正規のアルコール飲料はやや高い値段設定です。
安く酔いたいという庶民の需要に答える形で密造酒の販売も現実にはあり、正規のアルコール飲料市場が成長しない要因にもなっています。
理由3. アルコール飲料に対する法整備の強化
インドネシアで力を持っているイスラム系政治団体はアルコール販売規制等を強く主張しています。過去には、国民の健康の増進や未成年飲酒の撲滅をお題目として、コンビニでのアルコール飲料の販売中止、飲酒税の引き上げ等につながりました。
また酒税は2010年には1リットルあたり10,000ルピアでしたが、2014年には@14,000ルピア、2019年は15,000ルピアと上昇の一途を辿っています。
コロナ禍で税収減にあえぐ政府がさらに酒税を引き上げたり、またイスラム団体がさらなるアルコール販売規制を主張する可能性はこれからも残ります。
このようなアルコール市場を取り巻く環境を考えると、インドネシアのアルコール産業は将来的に乏しく、長期投資には向かないと思います。
もし投資を行うとすれば、短期的に株価が暴落した場合にスイング戦略をとるのは良いアイディアかもしれません。
インドネシアのアルコール株 2銘柄
1.PT Delta Djakarta(DLTA)
インドネシアには輸入ビールとして、カールスバーグやサン・ミゲルなども流通しています。これらの輸入ビールを取り扱っているのがDelta DJakartaです。
創業は1932年とかなり古く、時代ともに株主構成は変わっていますが現在はフィリピンのビール製造大手のサンミゲル社が58%、ジャカルタ州が26%の持株比率となっております。
そのほか、インドネシアご当地ビールとして名前の挙がることの多いANKER(アンカー)の製造元でもあります。
財政状況は、とても素晴らしい印象です。ビール製造会社というよりは輸入商社に近い業態ですので、固定資産もなく会社は身軽で外部借入はありません。現預金もかなり潤沢ですので近々で倒産リスクはないでしょう。
ただ、残念ながら直近四半期の業績はかなり乱高下しています。
コロナウィルスの蔓延により、売上が例年の半分程度に減少しています。
インドネシア人の主な飲酒場面は、バーやレストラン、クラブで少し飲むといった程度で、毎日家で晩酌するという方はほとんどいませんので、
市民が外出しなくなった = アルコール飲料の消費減少 につながっています。
コロナの影響を除けば、利益体質であり、その大半を配当に回していますので配当目的の投資家にとっては良い銘柄であると思います。
投資指標をみてみるとPBR 3.3倍、PER 35.5倍となっています。
過去のチャートを見てみると、4,000ポイント付近に強いレジスタンスがあり、また直近でもフラグパターンとなっています。
2. Multi Bintang Indonesia(MLBI)
ビンタンビールを主なブランドとして持つビール会社です。ビンタンビールはインドネシアのビールとして最も知名度が高いビールです。
世界最大手のビール会社ハイネケンが81%の出資比率を持っています
やはり新型コロナウィルスの影響を大きく受け、直近四半期では赤字転落となっています。
また 配当は毎年しっかり出しています。
ただ一番の問題は、市場評価が非常に高くPBR 14.7倍、PER 96.2倍です。PERについてはこれから業績が回復することを前提とすれば無視してもいいかもしれませんが、成長市場と必ずしも言えないアルコール市場に対して、このPBR値は異常だと思います。バリュー投資家は手を出さないほうが良いと思います。
アルコール産業で上場している企業は2社だけ
インドネシアには、下記のようなアルコール関連企業がありますが、残念ながらすべて非上場企業です。
- PT Bali Hai Brewery Indonesia
→バリ島発のラガービール”バリ・ハイ”の製造・販売 - PT Lovina Beach Brewery
→バリ島唯一のクラフトビール”Stark”の製造・販売 - PT Arpan Bali Utama
→ワインやリキュールの輸入卸
【結論】インドネシアのアルコール産業は様子見すべし!
残念ながら、インドネシアのアルコール産業は斜陽産業と評価せざるを得ません。各株式銘柄にもあまり割安感を感じられず、長期投資には不向きな気がします。
もし投資する場合でも金額は少額にとどめ、短期スイング戦略をとるのがよさそうです。